*もしも、彩花がWS隊員がいっぱいいるところにいきなり乱入してきたら…
*もしも、雨丸が記憶を取り戻していたら…
*そんでもって乱入してきた直後に王太たちと一戦交えて圧勝していたら…
を妄想してみた!

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震える彼の肩がとても脆く見えて今すぐにでも駆け寄って抱きしめたかった。
そして、ごめんねと謝りたかった。あの時手を離してごめん。ってただそれだけを言いたかった。

「……邪魔、しないでもらえませんか?」


にっこりと笑って、彼と自身の間に立つエイジたちに告げる。しかし相手は殺気立っていれ一様に動こうとはしてくれない。


「困りましたね、むやみに人を傷つけたくはないのですけど」


ふうとわざとらしくため息を吐いて、ゆっくりと腕を持ち上げる。動作に気づいた彼が、制止の声を叫ぶけれど、今はとにかく邪魔なものは排除したかったからあえて無視した。
ほんの少し力をこめてしまえば、数人が口から血を吐いて倒れた。
何が起こったかもわからないというそのままの感情を表情に表し、その様を見ているとひどく滑稽なもののように思えてくる。 一歩ずつ彼との幅を縮めていく。
先ほどの力に脅えて、今度は誰も手を出そうとはしない。
悠然とあるく敵を止めることもせず、ただ見送るさまはWSに対する落胆の感情だけを自身に植え付ける。過去自身たちを苦しめていたのはこれほどに愚かなやつらだったのかと。

殺す価値もないというのはこういうやつらのことを言うのだろう。


「ねえ、もうこんなやつら捨ててしまいましょうよ。あなたをこんなところには置いておけません」


嘲りの感情はよりいっそう自身の心の中で確かに膨らんでいく。今すぐにでも、ここにいる全員を殺してしまいたい衝動に駆られる。


「ま、…ってよ、何で…」


「何故?それこそ、僕が聞きたいですよ。それともあなたには僕よりもこいつらの方が大切ですか?」


いっそ残酷とも言える質問に雨丸は泣き出しそうに顔を歪める。
後ろでは物足りない様子の蜜歌が、少しつまらなさそうにこちらを見ている。
いつまでも答えがないのには少しだけ腹が立つ。


「蜜歌。殺していいですよ」

「ほんと?やったね」


許可が出ると至極楽しそうな声が返ってくる
すると焦ったように、雨丸が彩花へと縋ってくる。


「待って!!待ってよ、お願いだからっ!」


切実に必死に。そんな形容詞がたくさんつくほどに切羽詰った声を出して、彩花の腕を掴む。
地面にひれ伏している連中もただ光景を呆然と見ているだけの連中も全員恐怖の色を瞳に宿している。
ただ一人、現雨丸のパートナーを残しては。


「ふ、ざけんな!誰がお前らなんかに殺されてやるかよ」


実を言うと一番彼が重傷を負っているとも言える。どうやら、自分はよほど彼のパートナーであるということが気に食わなかったらしい。


「あぁ、まだ生きてたんですか。じゃあ、今度はちゃんと殺してあげますね」

「っ…!」


必死にひじをついて体を起こそうとする。しかし、無常にも彩花の手が挙がっていく。
すると突然右手に重さが加わった。雨丸が右手に圧し掛かるように、押さえていた。


「……めぇ、放してください」

「だ、め。だって、俺はそんなこと望んでないから」


決然と言い放つ様はあのころの力強い目を思い出させた。


「めぇ…」


困ったように言っても雨丸はただ頭を振るだけで、その手を放そうとはしない。


「では、もう一度だけ質問します。あなたはどちらが大切なんですか?」


いっそかわいそうになってしまうほどに、雨丸は大きな動作でびくついた。二度目の質問の意味が分かったからだ。この答えに失敗すれば、確実にここは血の海になる。
恐怖でかたかたと震え始めた雨丸に気づいた王太は、叫んだ。


「俺たちのことは気にするな雨丸!そう簡単にやられるほど弱くはねえ!!」

「俺は………」

「あなたは?」


わざと答えを急かすように、続きを促す。
何度も口を開閉させて、声なき声で叫んでいる。


「俺は、彩花の…ほうが大切、だよ」


途切れ途切れに言った言葉はまさに自分が望んでいた言葉で。彩花は今すぐにでも雨丸を抱きしめたかった。だが、それをしなかったのはひとえにごみの始末があったからだ。
そうWSという粗大ごみ。


「ありがとう、雨丸。じゃあ、さっさとごみを掃除して帰ろうか」

「ごみ?」

「そう、こいつらをね」


すうっと雨丸の顔から血の気が引いていった。更に周りの人間ももう駄目だと思い始めたのか、皆一様に逃げる体制に入っている。
未だに逃げることが叶わないのは一重に彩花の放つ空気に呑まれてしまっているからだ。


「彩花!だったら!俺は…」

「俺は?どうする?こいつらと一緒に死ぬとでも?」

誰かの息の呑む音が聞こえた。


「………いいよ、彩花がみんなを殺すというのなら俺は一緒にはいけない。だから殺せばいい」

いっそ潔いというべきか、それともそこまで大きな存在となってしまったことに嘆けばいいのか。
しかし、今の彩花には雨丸を殺す気など到底ない。


「ふう、困りましたね」


本当は困ってなどいない。やろうと思えば雨丸だけを残してあとを殺すなんて簡単だ。
だが、そんなことをすれば確実に雨丸は壊れるだろう。昔から依存度が高い子だったから。きっと今その依存している存在を目の前で殺されれば、それこそまた壊れてしまう。
そんなのはイヤだった。
だからわざとらしく選択の余地があるふうに匂わせてこちらに都合がいいようにもっていく。
それに気づいているのかいないのか、雨丸は少々迷った末にしっかりと彩花の目をみた。

「俺はちゃんと彩花についていく。だから……みんなには手を出さないで欲しい」


ああ、顔が緩んでしまう。いっそおかしなくらいに自分の想像したとおりにことが進んでいる。


「いいですよ」

ふわりと雨丸を抱きしめる。


「じゃあ行きましょうか」


とんと首の裏に手刀を入れるといとも簡単に体から力が抜けてくず折れた。
そのまま意識のなくなった体を抱き上げる


「さて、ではWSのみなさん。良かったですね、命が免れて」


にっこりとことさら綺麗に微笑む。もうここには用はないのだ。


「あぁ、言っておきますが少しでも動いたら容赦なく殺します。だって今なら雨丸は見ていませんからね」

「えー、殺しちゃえばいいのにー」


不満げに蜜歌が口を尖らせる


「駄目ですよ。一応でも約束守ってはおかないと雨丸が泣きますから。それに今はの話ですからね」


まるで次があるかのように匂わせると、隊員たちは恐怖で引きつった顔を余計に引き攣らせる。
そして、ようやく踵を返して隊員たちの間を余裕綽々で出て行く。


「では、ご機嫌よう」


扉をくぐって出て行く彩花たちをただ見ているしかなかった。