*とりあえず本編派生から始まります。
*本編知らないやって方には申し訳ないですが、なんとなぁく察していただけたら…なんて都合のいいこと言っちゃいます。(ジャンピング土下座
*因みに本編の進み具合によっては、内容が捏造になったり派生になったりしますのでご注意を。
見なきゃ良かった。
知らなきゃ良かった。
そうしたら。そうしたらきっと俺は――――。
「おはよう、めぇ。よく眠れた?」
目を開けると、嫣然と微笑んだ彩花の顔が見えた。雨丸は彩花の膝に頭を乗せ、横たわっていた。ふわりと頬を包む暖かい手が、心地よい体温を伝えてくる。
心臓が大きく高鳴る。鼓動が早い。
「あ、やはな…」
「うん、そうだよ。おはよう、めぇ。ようやく起きたね」
「彩花…」
上手く舌が回ってくれない。自分は何を言おうとしてるんだろう。
何て言えばいい?
ちゃんと思い出したよって?あれは彩花のせいじゃないって?
それとも、唯一であるはずのパートナーが彩花以外にいるってこと?
ぐるぐると頭の中が泥沼へと嵌っていく。すると、不意に頬に何か冷たい雫が当たった。
「え…」
見上げると彩花の綺麗な瞳からぽたぽたと透明の涙が溢れていた。それに気づいた雨丸は慌てて起き上がり、彩花の顔をまじまじと見つめた。
「あ、あの、彩花、俺」
ぴたりと唇に人差し指を当てられる。
それはつまり喋るなの意。雨丸は更に目を白黒させて、彩花を見る。
「言わないで下さい、今だけは。ほんの少しだけ時間を下さい。今だけ…ね?」
こつんとあわせた額。幼いころの癖。
雨丸はそのまま自然と自身の手を彩花の手と合わせた。
閉じた瞼の隙間から、また一つ雫が新しい筋を頬に描いた。
しばらくして、彩花がようやく泣き止んだ。
彩花は苦笑いと一緒に、強く雨丸の瞳を射抜いた。
「強引な迎え方だったかもしれないけど、迎えに来たよ…めぇ」
ほんの少し赤い目に暖かい色を映して彩花は笑う。雨丸は、不自然に自身の早い脈に気づいていた。共鳴してるのだろうか、半身に出会えた喜びに。
でも、俺は行けない。行っちゃいけない。だって、今は班長がいる。
俺は少し考えて、しっかりと彩花の目を見た。
「彩花、俺は…行けない」
「どうして?」
途端に厳しくなる口調。それと同時に明らかに変わった彩花の纏う空気。
思わず緊張に膝の上で手を握り締める。自然と下がる目線に雨丸は気づいていた。
「だって、俺にはパートナーが、班長がいる…から…」
言った。言ってしまった。どうしよう、絶対怒ってる。
反射的に上目遣いに彩花の表情を盗み見る。すると、彩花は凪いだ海のように変わっていなかった。
ただ背筋が凍るほどの冷たい視線だけがその感情を物語っていた。
「じゃあ、もう僕はいらない?」
「ち、違う!そういうのじゃなくて!」
「だったら、どういうことなの。めぇにとって、もう忘れてしまっていた過去のパートナーのことなんてどうでもいいんでしょ」
「あ、あやはな…!」
「じゃあ、どうしたら私を必要としてくれる?消してしまったらいい?今のパートナーを」
さぁっと血の気が引く音が聞こえた気がした。かたかたと震え始めた手をきつく握り締める。彩花の能力は自分が一番知っている。そのチカラの矛先が班長に向いたら…。
「ま…待ってよ、そんなことしなくたって。俺には彩花は必要だよ?それじゃ駄目なの?」
「でもパートナーはいるんだよね?じゃあ、めぇにとっての唯一無二の存在はどっかの誰かに盗られたまま。そんなの許せないでしょう?」
すると、彩花は言葉もなく黙ってしまった雨丸の耳元に口を寄せて、何事かを呟いた。
告げられた内容を理解すると同時に目を見開いて雨丸は驚いた様子を見せる。,
「彩花。何を考えてるの」
硬い声音で尋ねる雨丸の問いに彩花はただ笑う。
ふふっと笑った彩花はただ楽しそうに笑うだけだった。