もくもくと黒煙が立ち上る。その煙の中に、うっすらと人影が見えた。


「けほっ」


軽く噎せて、何度か咳を繰り返す。焦げ茶色の髪の少年は、頬の汚れを気にするでもなく、素早く辺りを見回した。自分ながらによく咄嗟にあれだけの反応ができたと思う。爆発する瞬間、相手の胸倉を掴んでいた手を大きく振り上げ空中に投げた。平均的な13歳の子供に比べてはまだ力はあるとはいえ、それでも人一人を空中に上げてもあまり高くはあがらなかった。それでもそのおかげで、爆煙に当てられるだけで済んだともいえる。


「おーい、タコ生きてるかー?」


自分がこれだけで済んでいるのだから、これであのタコ(狼) がそこらへんでのびてたりなんかしたら蹴り倒すぞこの野郎と王太は物騒な考えを頭の中に浮かべた。


「ったく、さっさと雨丸も探しに行かなくちゃいけないってのに…」


もうもうと視界を遮る煙幕もそろそろ晴れてきて、ようやく視線の先に誰かの影を見つけた。


「ったく、タコ、いるんだったら返事しろよなー」


ぶつぶつと文句を言いつつ、その人影へと近づいていく。近づいていくにつれ、その姿が 輪郭を現していく。


「あ…」


現れたのは雨丸だった。王太は慌てて雨丸へと駆け寄る。


「雨丸!お前、無事だったのか!?」


そのまま抱きつく勢いで、雨丸の体を触って怪我ないか確かめる。
ぱたぱたとついでに埃も払ってやって、満足した王太は「よし!」と頷いて雨丸の正面に立った。
触った感じではどこも怪我した様子もないし、ぱっと見でもたいした傷はない。
どうやら俺の思い過ごしだったか?
蜜歌の声のことに関して、残っていた奴らが実は縁だったのではと危惧していたのだが。
雨丸の姿を見た限りではそうではなかったようだ。では、次は狼たちを探さなければと王太は体を反転させた。


「なぁ、雨丸、お前が連れてった奴らってさー」


二、三歩歩いて雨丸へと問いかける。その間も視線は狼たちを探す。


「班長…」

「ん?」>

上半身だけを捻って、雨丸の方へと視線を向ける。
振り向いた先にいた雨丸は今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「どうしたんだよ、雨丸?」

「………ごめん、なさい…」

「は?」


がちゃりと銃の撃鉄を落とす音がした。雨丸の手元を見ると、そこには黒く光る銃が握られていた。それは紛れもなく本物の銃で。


「どういうことだよ、雨丸…」


我知らず声が震えている。


「悪い冗談はやめろよ」

「………」


雨丸は黙ったままだ。焦れた王太は、雨丸へと一歩踏み出そうとした。
しかし、その瞬間王太の足元へと銃弾が放たれた。
その銃弾が地面にめり込むのを見届けた後、顔を上げればやはり雨丸の持っている銃から硝煙が上がっていた。


「雨丸、お前…」


王太は信じられないものを見ている気分だった。
嘘だ。こんなのは嘘だ。


「班長、さようなら」


頼むからそんな泣きそうな顔をしないでくれ。
どうか、嘘だと…言って。


ぱんっ。


2人を別つ音は陳腐な音ではあったけれど。
信じていたパートナーから発された言葉と銃弾は、真っ直ぐに王太へと向かった。
俺たちが過ごした三ヶ月は、こんな信頼しか築けなかったのだろうか。
王太は、体から力が抜けていくのを感じていた。




かくして、世界は反転した