懐かしい夢を見た。あのころ、まだ彩花が隣に居て、俺がいて、博士がいて、皆がいて。
いっぱいいっぱい遊んで、いっぱいいっぱい笑って。
例え訓練がどれだけ厳しくても、彩花がいれば。いてくれれば、世界は回っていた。毎日が楽しくてしょうがなかった。
一日が終わってしまうのが寂しくて、一日が24時間なんて誰が決めたのかなんて困った質問を彩花にしたことだってあった。
それが壊れてしまったのは、きっと変えようのない運命だったのかもしれないと今更ながらに思う。
そしてその運命が今の事態を引き起こしたのなら、俺は素直にこの運命の曲に合わせて踊ってあげよう。
だって、それが観客に対する礼儀でしょう?
「ねぇ、班長?」
目の前に居たのは、班長だった。
小さな体躯に似合わず、誰よりも強く澄んだ瞳で交通課を束ねる人で、そして――――俺のパートナーだった人。
真っ暗な世界。きっと、これは夢だ、だから今なら許される。
泣けばいい。今の理不尽な世界に。運命に。泣いてしまえばいい。
「でも…泣けないんです」
悲しげに目を細めて、班長を見つめる。現実の班長は無事だろうか。撃ったのは足だったから、命に別状はないはずだ。
「でも、きっと怒ってるんだろうなぁ」
思わず苦笑いをしてしまう。
物言わぬ班長に対して何を言っても意味がない。ただ呟いた言葉はただの独り言として暗闇に溶けていった。
大切だった。それは今も変わらない。あの場所が、あの温もりが、あの人たちが、あのパートナーが。
「どうすればいいですか…?俺には、もう一度彩花の手を離すなんて出来ないんです」
可哀相な彩花。ただ俺が生きていることをずっと信じ続けてくれていた。俺だけをパートナーとして、ずっと。それを俺は知らなかったとはいえ、裏切った。
きっとそれはすごく辛いことで、哀しいことで俺には想像もつかない。
「だから…ね。班長」
伏し目がちだった瞳が、真っ直ぐに班長へと向けられる。
「俺は――――」
大丈夫、だってこれは自分が決めたことだから。
あのころのように状況に流されるわけじゃない。
大丈夫、自分はまだ自分の足で立ってる。
あのころのようにうずくまっているわけじゃない。
だから、だから。
どうか、あなたたちの幸せを願って。